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ミカトリオ配合錠と多重検定

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こんにちは、黒田です。

 

 

先月発売になった、3成分を配合した新薬 (?) 「ミカトリオ配合錠」。第一選択としては使用できない旨が厚労省から通知されるなど、単なる配合錠の割には、さまざまなネタを提供してくれています。

 

 

それはともかく、この薬をみてここ最近ブログのテーマとしている統計との関連について、思うところがあったので、この記事ではそれについて述べようと思います。

 

 

 

練習問題

まず基礎知識として、ミカトリオは次の3成分を1錠中に含む配合剤です。

 

●テルミサルタン80mg

●アムロジピン5mg

●ヒドロクロロチアジド12.5mg

 

 

用法は、1日1回1錠です。さて、このことを踏まえて、次のようなケースではどうすればよいのか、少し考えてみてください。

 

 

--------------

 

ミカトリオ配合錠と、これに含まれる3成分それぞれを単独使用した場合の、降圧作用について比較したい。

 

 

そこで高血圧患者50名をリクルートし、併用薬をすべて中止して2週間のwash-out期間を設けた。

 

 

その後、被験者にミカトリオ配合錠-テルミサルタン80mg/day-アムロジピン5mg/day-ヒドロクロロチアジド12.5mg/dayの順に、それぞれ2週間服用させ、各薬剤服用開始前のベースライン血圧からの変化を測定した。

 

 

各薬剤服用periodの間には、1週間のwash-out期間を設けた。このとき得られた、各薬剤使用時の血圧変化データを検定したい。どの検定を用いればよいか。ただし、有意水準α=0.05とする。

 

--------------

 

 

厳密にいえば、各薬剤投与期間ごとにwash-outしているとはいえ、持ち越し効果の可能性があるため、すべての投与順ごとにデータをとる必要があること (この場合4×3×2=24通り)、血圧という季節変動があり得るデータを取り扱うため、クロスオーバーよりも独立2群のデータセットで行うべき、などの問題はありますが、ここではこうした点は棚上げさせていただきます。

 

 

あくまでも、上記のようなケースで適用すべき検定法は何か?という点を考えてほしい、という意図です。ちなみに、データは正規分布を仮定できるとします。このとき、次のように考える方が多いのではないでしょうか。

 

 

--------------

 

このケースでは、ミカトリオ vs 他の単独成分、という組み合わせで複数回の検定を行うことになる。ということは、多重性の問題が生じるから、多重検定を適用すべきだ。

 

 

注目しているのは、「ミカトリオが他の成分単独より優れているか?」だから、この場合ミカトリオ服用時のデータが対照群となる。データは正規分布ということは、パラメトリック法を使えばよい。

 

 

これらの条件から、ミカトリオ使用時のデータを対照群とした、Dunnett検定を用いるのが適切である。

 

--------------

 

 

なるほど、説得力のある論理展開・・・に一見思いますが、このケースでは上記は不適切といわなければなりません。その理由は、以下で述べます。

 

 

 

 

 

 

多重検定を使用できない理由

この場合、Dunnettという検定法のチョイスに問題があるというよりも、「そもそも多重検定を使用することが適切ではない」のが簡単な理由です。

 

 

「でも、ミカトリオ使用時のデータと、他の3成分のデータそれぞれで検定をすると、合計3回の仮説検定を行うことになる。この多重性を考慮しなくてよいのか?」と疑問に思われるでしょう。

 

 

これはなかなかに意味深長な意見なのですが、ここで考えていただきたいのは「そもそも、多重検定で制御しているのは何か?」です。この点については、過去の記事でも述べましたが、端的にいえば多重検定では「αエラーの確率の制御」が行われています。

 

 

言い換えるなら、検定1回あたりのαエラーの確率は0.05なのだから、検定回数を増やすことで、「どこかで」αエラーが起きる可能性が高まる。したがって、個々の有意水準の値を制御することで、全体としての有意水準を望む値に近づけよう、ということです。

 

 

今、「どこかで」としたのが重要で、上でいえば、多重検定を用いるということは、仮にミカトリオと他の3成分それぞれの単独使用で差がない場合に、

 

--------------

 

ミカトリオがテルミサルタンよりも有意に優れている

 

または

 

ミカトリオがアムロジピンよりも有意に優れている

 

または

 

ミカトリオがヒドロクロロチアジドよりも有意に優れている

 

--------------

 

 

と誤った判定を行う可能性が0.05を上回るので、有意水準を制御しよう、という発想に他なりません。

 

 

しかし、ここで考えてほしいのですが、この試験で本当に証明したいことは何でしょうか?ミカトリオが、他の3成分単独の「いずれかより」優れていること、ではないでしょう。ミカトリオは、他の単独成分と比較して、それぞれ「+2種類」の降圧成分を含んでいるのですから、証明すべきは、次のことでしょう。

 

 

--------------

 

ミカトリオは、その配合されている3成分単独使用時と比較して「すべて」有意に優れている

 

--------------

 

 

先ほどの記載形式に則って、上記を還元するなら、

 

 

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ミカトリオがテルミサルタンよりも有意に優れている

 

かつ

 

ミカトリオがアムロジピンよりも有意に優れている

 

かつ

 

ミカトリオがヒドロクロロチアジドよりも有意に優れている

 

--------------

 

ということです。これらすべての条件をクリアしなければならないのですから、3つの比較はそれぞれ何の関係もない、独立・並列な位置づけです。したがって、このケースでは多重性は問題にならず、多重検定を用いる必要性もない (というか、してはならない) のです。

 

 

 

 

 

対処法

では、この場合どのような検定をするのがよいのか?といえば答えは単純で、ミカトリオ vs 他の3成分それぞれを使用したときのデータとで、一標本t検定を3回行えばOKです。

 

 

今回のケースは、なまじっか統計の知識があるがために、深読みし過ぎて間違う典型といえるので、くれぐれもお気を付けください。

 

 

 

では、また次回に。

 

 

 


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