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メタ解析におけるバイアスの評価法

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こんにちは、黒田です。

 


前回の記事で、メタ解析に組み込まれた試験のバイアスについて触れました。また、同じく前回の記事の冒頭で示した以下の図は、メタ解析における個々の試験の各種バイアスを、視覚的に表現したものです。

 

 

 

 

 

 


緑色は「Low risk of bias」、黄色は「Unclear risk of bias」、赤色は「High risk of bias」となります。つまり、「緑・黄・赤」の順にバイアスのリスクが、「低い・不明・高い」ということです。これはちょうど信号機と同じ対応関係ですから、感覚的にも納得しやすいでしょう。

 


しかし、それぞれのバイアスが「Low」「Unclear」「High」であると決めるには、然るべき評価を行う必要があります。この各種バイアスの評価にも、ある程度統一的な基準があるので、今回はそれについて述べていきます。

 

 

 

 


各バイアスの評価基準

それぞれのバイアスが、いずれのグレードに相当するかに関するクライテリアは、前回も引用した「Cochrane Handbook for Systematic Reviews of Interventions」に記載されています (1)。以下に、これを適宜噛み砕いて紹介します。

 

 

 


選択バイアス

ランダム化シーケンス作成

Low risk of bias

 

以下の方法を用いたシーケンス作成が行われている場合

  • 乱数表
  • コンピュータによる乱数発生
  • コイントス
  • カードシャッフルまたは封筒法
  • サイコロを振る
  • くじ引き
  • 最小化法

 


High risk of bias

 

シーケンス作成プロセスにおいて、以下のような非ランダム成分が含まれる場合

  • 誕生日
  • 日付
  • 病院のカルテ番号
  • 以下のような、非系統的なアプローチはなおさらである
  • 研究者の判断による割り付け
  • 被験者の希望による割り付け
  • 別の研究結果にもとづく割り付け
  • 介入が可能であるかを考慮した割り付け

 


Unclar risk of bias

 

「Low risk」か「High risk」かの判断ができない場合

 

 

 

補足

最初にこれを見たときに、正直いって少し驚きました。なぜなら、「Low risk of bias」の基準である封筒法やコイントスなどは、RCTにおけるランダム化の手法としては、好ましくないと一般に見なされているからです。こうした手法を用いた試験は、RCTというよりもCCTに分類されるとみるのが普通で、したがってエビデンスレベルも下がります。

 


しかし、よく考えてみれば、メタ解析において組み入れ対象になるのは、必ずしもRCTだけではありません。そのため、バイアス評価基準もより広範な研究デザインに適用できるように、守備範囲の広いものにする必要があります。封筒法やサイコロなどは、「RCTにおけるランダム化手法」としてみればよくない方法ですが、それでも割り付けの確率自体は均等です。つまり、ここでのクライテリアでは純粋に割り付けが確率論的に均等に行われる方法が採用されているか、という視点から設定されたのだ、と個人的には解釈しています。

 


それはそうと、Low risk of biasに出てきた「最小化法」については少々説明が必要かもしれません。これは、ずいぶん前に紹介した「適応的ランダム化」の手法の一種です。適応的ランダム化とは、割り付けの途中から、群間に生じた偏りを是正する目的で、意図的にバランスをとるように以後の割り付けを行う手法の総称でした。

 


最小化法はこのうち、最初の被験者を1/2の確率で割り付け、以降は研究において注目する要素が均等になるように割り付ける方法です (2)。例えば、「年齢」「性別」「体重」を群間で均等になるように割り付けたいとします。このとき、次の被験者を割り付けたとき、これら3つの要素の均衡度の差が小さくなる方の群に割り付ける、ということです。

 


「おいおい、それじゃあ全然ランダム化じゃなくて、完全に恣意的じゃないか」という声が聞こえそうです。確かに、一見するとおよそ「ランダム化」と名乗ることは不適切そうな手法に思えます。しかし、よくよく考えてみるとこれはなかなかに意味深長な手法です。

 


というのも、ランダム化の本質に立ちければ、この意義は「群間の背景因子の偏りを最小化すること」です。ということは、逆にいえばこの目的が達成できるなら、必ずしもランダム化という手法にこだわる必要はなくなります。適用される研究デザインは異なりますが傾向スコアなども、これに近い考え方をした方法でしょう。その試験における重要な背景因子が既知であるなら、それらが十分に均等になるランダム化以外の方法を採用することは、十分に現実的だと思います。

 


「でも、最小化法だと未知の因子についてはまったく調整できないだろう」と思うかもしれません。それは確かにその通りです。しかし、かといって「普通のランダム化」をすれば未知因子の影響を確実に排除できるか、となればそう単純な話ではありません。

 


なぜなら、ランダム化がなされる被検者は、あくまでも「標本」でしかないからです。ランダム化にて行われているのは、母集団から抽出した標本を、その範囲内で偏りが生じないように割り付ける作業に他なりません。

 


つまり、仮に「厳密な意味での」ランダム化を行ったとしても、母集団からの標本サンプリングの過程で生じるバイアス (選択バイアス) は、避けようがないということです。ランダム化も、決して理想形や究極の形ではないともいえるでしょう。

 


もちろん、選択バイアスがあるのは、どんな割り付け方法でも同じなのだから、これ以上未知因子による影響を受けないようにする方が好ましい、という意見も傾聴に値するものです。しかし、この時点で我々の興味関心は「あくまでも真の意味でのランダム化をしなければならないのでは」という原理主義的な立場から、「実用に耐える方法とそうでない手法の境界はどこにあるのか」というプラクティカルな立場へと変化しています。

 


要するに、十分実用に耐えるのであれば、統計学的な正しさにこだわり過ぎる必要はない、という結論に落ち着きます。コクランがこうしたロジックを構築したのかは分かりませんが、結果として最小化法も、Low risk of biasとして認められています。

 

 

いきおい、最小化法についての説明が長くなってしまいました。次に行きます。

 

 

 

 


割り付けのコンシールメント

Low risk of bias

 

以下のいずれかの方法またはそれに類するもので、被検者および研究者が、割り付けについて知ることができないようにした場合

  • 登録センターでの割り付け
  • 同じ外観で連続番号が振られた薬剤の容器
  • 不透明で封がされた容器に連続番号を振ったもの

 

 

High risk of bias

 

被験者および研究が、割り付けを知りうる、次のような方法

  • オープンランダムな割り付け方法の使用
  • 割り当て封筒がきちんと封印されていない (不透明でないなど)
  • 交互または順番での割り付け
  • 誕生日
  • 症例番号での割り付け

 


Unclar risk of bias

 

「Low risk」か「High risk」かの判断ができない場合

 

 

 

補足

「Unclar risk of bias」にはさらに、コンシールメントについての記述が十分になされていない研究が多いことを示唆する記述があります。

 


そこに挙げられている例は、「封筒法を使用したことは記載されていても、その封筒に番号が振ってあるのか、不透明なのか、封がされているのか、などが記載されていない」というものです。

 


確かに、こうした情報まで論文本文から読み取れる例は少ないといってよいでしょうから、結果的にコンシールメントについての評価は「Unclar risk of bias」となるケースも多いと思われます。

 

 

 

他のバイアスについての評価基準は、次回以降に紹介します。

 


では、また次回に。

 

 


Reference

  1. Cochrane Handbook for Systematic Reviews of Interventions. http://handbook.cochrane.org/
  2. 佐藤俊哉 人間栄養学講座連載ランダム化臨床試験をする前に【第4回】ランダム化の方法  栄養学雑誌 2007. 65(5);255-260.

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