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MICDの決定方法について

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こんにちは、黒田です。






前回、「測定の標準誤差 (SRM)」について触れました。今回は、このSRMが臨床において活用される事例として、「臨床的有意な最小変化量 (MCID)」についてまとめておきます。







 

MCIDとは何か

まず、MCIDとはそもそも何なのかについて、簡単に説明しておきます。


例えば、ある薬剤がプラセボまたは他の同効薬と比較して効果に違いがあるか検証する場合、RCTなり何なりの臨床試験を行い、その結果を統計処理するわけです。


もう少し有体にいえば、統計学的仮説検定を行って、有意差がみられたなら効果に差がある、そうでないなら差がない、と見なすのが一般的です。


ところが、こうしたアプローチは、「検出された差異が臨床的に意味のある程度のものなのか?」という疑問に応えるものではありません。統計学的には有意な差であっても、臨床的には意味がない場合もありますし、その逆もあり得るからです。


こうした背景から生み出された概念が、MCIDです。一例を挙げれば、FEV1の場合は50mLがMCIDになるとおおむねコンセンサスが得られています (1)。つまり、気管支喘息治療間の治療成績を比較したとき、FEV1の改善量に50mL以上の差がみられたならば、それが統計学的に有意であるかは問わずに、臨床的には意味のある差があると考えるということです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

MCIDの決め方

このように、MCIDという概念は臨床に携わる者としては、納得しやすいものだと思います。


しかし、個人的にずっと分からないでいたことは、「MCIDは、そもそもどうやって決めているのか?」です。そこで、いろいろな文献を調べたところ、文献2にこの点が分かりやすくまとめられていましたので、重要な点を以下に抜粋しておくことにします (2)。




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  • MICDの決定法は、大きく「distribution-based method」と「anchor-based method」に分けられる
 
  • distribution-based methodは、統計学的特性にもとづいてMCIDを決定する方法で、この際使用されるパラメータの例として、効果量およびStandardised Response Mean (SRM:平均値変化÷標準偏差)
  • その他のパラメータとして測定の標準誤差 (SEM) が挙げられる
  • 効果量およびSRMには単位がないが、SEMは元の測定値と同じ単位で取り扱いが可能
 

 

  • anchor-based methodは、外部基準を「アンカー」にする方法
  • distribution-based methodと比較して最小重要度の概念が明確である

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つまり、方法には大きく2つあるということです。このうち、distribution-based methodは、SEMに代表される統計学的なパラメータを用いてMICDを求める方法で、他方のanchor-based methodは、症状等のスコアに「紐づけ」することでこれを求める方法です。


後でまた登場しますが、基本的にはanchor-based methodを優先するべき、と考えられています。


また、前回取り上げた「測定の標準誤差」がここで登場しました。続きの部分で、より詳しい説明がされています。








 

SEMの定義

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  • SEMは、標本標準偏差SDと、測定方法の信頼性係数Rにもとづき、次式で定義可能。SEM = SD√(1-R)
  • 測定方法の信頼性の指標としては、再テスト法およびクロンバックのαが用いられる
  • クロンバックのαの場合、SEMを1回の測定で定義可能で、純粋に測定方法の変動性を表す
  • 再テスト法の場合、安定した集団での2回の測定が必要で、時間的安定性を意味することから、時間変化を伴う研究においてはクロンバックのαより適している

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測定の標準誤差の定義については、前回の記事でも触れた通りです。


信頼性係数についても、過去の記事で触れました。ここでは、再テスト法とクロンバックのα係数の2つが説明されていますが、他にもいくつか指標があります。各々の特徴を踏まえて使い分ければよいのでしょう。







 

distribution-based methodによるMICDの設定

distribution-based methodについては、以下のようにまとめられています。




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  • MICDとSEMがよい対応関係を示すのはベースライン値が中等度のケースのみ
  • ベースライン値が高い場合、MICDはSEMよりかなり大きくなる
  • ベースライン値が低い場合、MICDはSEMよりかなり小さくなる


結論:「1SEM=MICD」という説は、少なくとも一般には成り立たない

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感覚的には納得しやすい話と思います。疼痛を例にすると、もともとの疼痛が強い場合は、大きな変化を生じないと意味がないと感じますし、弱い場合はわずかな差でも変化したことが分かる、ということだからです。


こうしたことから、MICDは単純な残差というよりも、変化率という観点から考えた方がより正確である可能性が示唆されると思います。


結局のところ、ベースライン値が高すぎても低すぎても、SEMを用いたMICD推算は上手くいかないということなので、自ずからdistribution-based methodの守備範囲は限られたものになるということでしょう。


なお上記の通り、「1SEM=MICD」という説があるようですが、これについては後述します。




 

 

 

anchor-based methodによるMICDの設定

一方で、anchor-based methodについては、以下のように書かれています。



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  • anchor-based methodにおいては、患者の主観的評価尺度をアンカーに用いるのが一般的である
  • 「最小限重要」をどこに設定するか?については、「中等度改善」などをもってこれに代用することが多い
  • 別の例では、「若干改善」と「顕著に改善」の間とするケースもある
  • 中等度改善をカットオフにする場合、MICDはSEMの2.5倍程度になることが多い
  • 治療者評価型のアンカーの場合、どこに注目するかでMICDの値はさまざまになる (スコア全体に着目する場合と、個々のスケールを重要視する場合など)

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要するに、質問紙やアンケートなどでMICDを決める場合、真ん中より少し低値をもってこれに代用することが多いようです。このあたりは、どうしても主観的なものが入り込むので、ややおおらかな側面があるのでしょう。


ただし、上述のようにanchor-based methodにおいてスタンダードな「中等度改善」をMICDとする場合、MICD=2.5SEMとなることが多いようで、これは先ほど述べた「1SEM=MICD」という説とはかなり乖離しています。








 

MICDの値は、ベースラインの値に依存する

MICDがベースライン値によって変化することは先ほど述べた通りですが、もう少し詳しく説明されています。




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  • 一般に、ベースラインの値が高いと、MICDの値も高くなる傾向にある
  • 急性期と慢性期ではMICDが異なることがある (疼痛など)
  • 改善する方向と悪化する方向で、MICDは同じになるという報告と、異なるという報告が両方ある
  • 例えば、SF-36においては悪化方向のMICDは改善方向のMICDより高い値を示す


→MICDは「最小重要度」の定義やベースラインに依存するため、固定値と見なすのではなく、適用範囲を明示することが必要である

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他にMICDに影響する因子として、症状や疾患が急性か慢性か、改善と悪化どちらの方向で検出をするのか、が挙げられています。


急性・慢性については、何となくイメージが湧く気がします。急性期には症状の変化も大きいので、より大きな変化をしないと臨床的に意味が見いだせない、つまりMICDが大きくなり、逆に慢性期にはちょっとした変化にも気づきやすいので、これが小さくなる、ということでしょうか。


一方で、検出したい変化の方向については、影響しそうな気はするものの、具体的にどのように?と聞かれると上手く説明することが難しく感じます。SF-36を例にすれば、もともと症状の変動が激しい疾患だから、少しくらい悪化しても誤差範囲と考える一方で、改善したときは「治療が効いた」と思いやすい・・・とかでしょうか?しかし、これは逆のパターンも十分考えられるので、やはり何ともいえないところと思います。








 

特殊なケースにおけるMICD

特定の状況下では、distribution-based methodによるMICD推算が、他の状況と比べて機能しやすいようです。




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  • 一部領域のMICDは、ある程度distribution-based methodで予測可能

→QOL関係のMICDは、1/2SDで説明できるものが比較的多い
 

 

 

  • 苦痛を伴うような変化に関するカットオフは、「変化なし」と「わずかに変化」の間に存在する場合がある

→このときMICDはSEMに近似される
→ただし、この場合は最小重要度が検出限界を下回ることが多い


結論:アンカーとカットオフポイントの設定は恣意的であり、統計学的特性にもとづくものではない

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上記「結論」については、ある意味当然のことで、それこそがanchor-based methodの意義といっても過言ではありません。




 

 

 

 

 

まとめ

  • distribution-based methodは、最小重要度よりも最小検出可能変化に着目した方法である
  • したがって、通常はanchor-based methodが優先されるべきである

 





 

Reference

  1. http://qol.thoracic.org/sections/measurement-properties/minimal-clinically-significant-difference.html
  2. de Vet HC, et al. Minimal changes in health status questionnaires: distinction between minimally detectable change and minimally important change. Health Qual Life Outcomes. 2006 Aug 22;4:54. PMID: 16925807

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