こんにちは、黒田です。
内科・脳外科・耳鼻科などの領域でたびたびみかける薬剤である、ベタヒスチン。有体にこの薬に対するイメージを述べれば、「大して効果もないけど、副作用も特にない薬」です。
そのため、あまり気にして調剤したこともなかったのですが、患者の訴えなどを聞いているとめまいはかなり重要な症状としてとらえられていることが多いことに気づきました。ということは、めまい症状の改善は意外と軽視できないエンドポイントでしょう。そこで、上記の通りめまいに汎用されるベタヒスチンの効果がどのくらいなのか、文献を読んでみることにしました。
文献
Summary
- 急性めまいを有する患者に、プロメタジン筋注を行った場合と、ベタヒスチン内服を行った場合で、症状VASが異なるか検証した、二重盲検RCT
- ランダム化の手法にやや難があるように思われる
- 症状VASスコアはベタヒスチン群で低値で、副作用もベタヒスチンで少なかった
Study design
- P: patients with acute peripheral vertigo (急性の末梢性めまいを呈する患者)
- E1: promethazine intramuscularly at a dose of 25 mg (group A) (グループA:プロメタジン25mgを筋注)
- E2: 8 mg betahistine tablets (group B) (グループB:ベタヒスチン8mg錠を内服)
- O: Effectiveness of each drug was assessed by VAS changes (治療効果は症状のVASスコア変化で評価)
- T: 二重盲検RCT
- ランダム化:本文中に以下の記載があり、いわゆる封筒法による割り付けであることがわかる。厳密には準ランダム化に相当する方法。公開されている各群の患者背景も下の表通りで、かなり少な目となっている。この点が微妙な可能性があることは意識しておく。
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Patients eligible were randomly selected by removing the sealed envelopes containing the treatment type available in emergency pharmacies.
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- ITT解析:いずれも評価項目の解析でも除外例はなく、完全に守られている。
プロメタジン注射に関しては、日本で使用されているオーソドックスなdoseと同じ。一方で、ベタヒスチンに関しては日本で市販されている錠剤は6mgと12mgなので、ちょうどこれらの中央値doseとなっている。ともあれ、ベタヒスチンはどちらの規格を使うか、正直医師の趣味といったレベルの薬剤なので、大きな外的妥当性はないと判断。
Result
主要評価項目である、症状のVASスコアの経時的変化の様子は以下の表の通りで、いずれの時間帯でもベタヒスチンを使用したグループBで低めに抑えられている。
副作用については、下表の通り。やはり抗ヒスタミン剤であるプロメタジンは中枢神経系の副作用がかなりの頻度で見られるようだ。一方でベタヒスチンにはこうしたものは観察されていない。
コメント
急性期における治療効果の評価なので、保険薬局での調剤とはやや異質なシチュエーションではありますが、ベタヒスチンには抗ヒスタミン剤と同等以上の効果がありそうです。それよりも、ベタヒスチンに関しては目立った副作用がなかったことの方が重要に思えます。この点に関しては、実際に調剤をしている薬剤師としての感覚と大きな相違ありません。薬局で相対する患者は、比較的軽症であることが多いこと、またいわゆる不定愁訴としてのめまい感に対して、何らかの抗めまい薬が長期的に使用されることがままあること。こうしたことを考え合わせれば、この試験で見られたベタヒスチンの特徴から「使いやすい薬」と評価してよさそうです。
もちろん、漫然投与は褒められたことではありませんが、このように人畜無害に近い薬剤の服用によって患者の満足度が向上するなら、場合によっては「それはそれでありか」で済ませてもよい気がします。薬価もかなり安めですし・・・。いずれにしても、抗ヒスタミン剤を続けるよりは害が少ないでしょう。ベタヒスチンについては、今後も比較的寛容な立場をとることにしたいと思います。
では、また次回に。
Reference
Motamed H, et al. A Comparison of the Effects and Side Effects of Oral Betahistine with Injectable Promethazine in the Treatment of Acute Peripheral Vertigo in Emergency. J Clin Med Res. 2017 Dec;9(12):994-997. PMID: 29163732