こんにちは、黒田です。
5月も終わりに近づいてきたので、最近は減ってきたものの、私の薬局では抗ヒスタミン剤の処方を受ける機会が多くあります。こうした処方を調剤するときに気になるのは、てんかんをはじめとした脳波異常を有する患者です。一般論として、第一世代の抗ヒはこうした患者には禁忌である一方、第二世代は基本的に問題なし、と見なされていると思います。
実は、いまだに第一世代の抗ヒが処方せんに入っていることも結構あり、処方を受けた際にはかなり神経をとがらせているわけです。しかしながら、逆に第二世代だからこのあたりに無頓着でOK、といってもよいものか?以前から疑問ではありました。少し時間ができましたので、今回はこの点について調べてまとめておこうと思います。
動物実験の結果をみてみる
予想はしていたことですが、上記のclinical questionに直接的な回答を与えるような臨床試験は、調べた範囲では発見できませんでした。評価項目が有害事象である以上、いいところで後ろ向き解析くらいしかできない事情もあると思います。それらしい報告も、いくらかあるにはあったのですが、アクセス権の関係で詳細を見ることが叶いませんでした。
そこで、次善策として動物実験の報告がありましたので、これを参照することにします。ラットに最大電撃痙攣を起こさせ、事前に投与しておいた抗ヒスタミン剤の種類によって、持続時間に差が出るか検討したものです。ここでは、脳波発作 (EEG)、強直-伸展発作 (TE)、間代発作 (CL)、の3種類がそれぞれ調べられています。その結果は、順に下の3図。
被検薬剤として、第一世代から
- ジフェンヒドラミン
- クロルフェニラミン
- シプロへプタジン
- ケトチフェン
の4剤が、第二世代から
- エピナスチン
- フェキソフェナジン
の2剤が採用されています。結果をみると、EEGおよびTEに関しては第一世代でおしなべてコントロールとの比較で有意に発作時間が延長。その一方で、第二世代では有意な延長なし、となっています。また、CLについてはどの被検薬剤でもコントロールと有意差なし、のようです。
コメント
結果だけを見ると、確かに第一世代の方が第二世代と比較して脳波あるいは痙攣発作に与える影響は大きいといえると思います。しかし、特にEEGおよびTEでは第二世代であるエピナスチン・フェキソフェナジンでも発作持続時間を延長させる方向性に作用しており、これらが脳波に全く影響しないわけではなさそうです。要するに程度問題であり、第一世代よりはマシ、くらいではないでしょうか。
次に、各薬剤の用量依存性に関してですが、EEGとTEにおいてこれらがある程度きれいに出ているのは、クロルフェニラミン・シプロへプタジン・ケトチフェンの3剤です。ジフェンヒドラミンについてはどのdoseでもほとんど持続時間に差がありません (EEGでコントロールとの比較で4-5秒程度の延長)。実は、最小doseの5mg/kgですでにfull-responseが得られており、用量依存性が認められるdoseはもっと下だったのかもしれませんが。また、EEGにおいて用量依存性が顕著なケトチフェンを例にとっても、最小doseの2mg/kgと最大の10mg/kgでの持続時間残差はおよそ5秒です。5倍の投与量差があっても、実際に表れる影響はこの程度、と表現してもよいでしょう。
こうしたことを考え合わせると、臨床的なアウトカムに限っていえば、抗ヒスタミン剤の投与量は脳波所見に対してあまり大きな影響を与えない可能性があります。つまり、投与量を少なくすればOK、とはいえないと考えられます。同時に、2倍量投与したら著しく危険、ともいえないと思われます。もっとも、このあたりには当然種差がありますので、動物実験の結果をそのままヒトに外挿はできないのですが。
もう1点気になるのは、それぞれの薬剤のdose設定です。例として、ケトチフェン・エピナスチン・フェキソフェナジンの3剤を取り上げます。これらの薬物の日本における標準的な成人量は、それぞれ以下の通りです。また、成人の体重を60kgと仮定して、体重あたりのdoseも併記します。
- ケトチフェン:2mg/day→0.033mg/kg/day
- エピナスチン:20mg/day→0.33mg/kg/day
- フェキソフェナジン:120mg/day→2mg/kg/day
こうしてみると、参照した試験における投与量は、ケトチフェンとエピナスチンではヒトの100倍程度である一方、フェキソフェナジンでは10倍程度のオーダーです。このように、体重あたりの投与量にヒトでの常用量と結構な薬剤間差があるので、このあたりも割り引いて見る必要はあるでしょう。
以上、確かにいえそうなのは、第二世代は第一世代の抗ヒよりはマシである、ここまででしょう。今回は最大電撃痙攣という人工的なシチュエーションでしたが、実臨床における脳波異常・けいれん発作は患者によって千差万別ですから、「どういう場合に、どの薬剤ならOKか」などの統一的な基準を作ることは、現実的に不可能でしょう。本当に当たり前のことですが、その都度に抗ヒの必要性を吟味して、デメリットがメリットを上回りそうなら使用を控える、こうした対処をするほかなさそうです。
では、また次回に。
Reference
Ishikawa T, et al. Influences of histamine H1 receptor antagonists on maximal electroshock seizure in infant rats. Biol Pharm Bull. 2007 Mar;30(3):477-80. PMID: 17329841