こんにちは、黒田です。
風邪のシーズンですが、俗にいう「風邪処方」にベンゾジアゼピン系薬剤が入っているケースをときどき見かけます。知り合いの医療関係者にこのことを話したところ、自分も時々目にするとの回答でした。
おそらくは、咳症状の改善を目的にしている・・・のではないかと思われますが、あまりスタンダードなアプローチとは正直思えません。実際のところどの程度効果が期待できるかも全く不明ですので、一度調べてみることにしました。
関連しそうな文献
「benzodiazepine」と「cough」をキーワードに文献を検索しましたが、もともとの疑問であった上気道炎などにおける咳止め効果に関する検討を行った試験は、該当しそうなものが見つかりませんでした。
代わりといっては何ですが、やや遠いながらも関連しそうな文献を挙げます。フェンタニル誘起性の咳嗽に対する種々の薬物効果を調査したメタ解析です (1)。
権利関係で、抄録しか読めないため掻い摘んで。
- P: フェンタニル使用者
- E: 諸々の薬物あるいは介入
- C: コントロール群
- O: フェンタニル誘起性咳嗽のオッズ比
- T: メタ解析
それぞれの薬物・介入群の咳嗽オッズ比 (95%CI) は、以下の通りとのこと。
- リドカイン:0.29 (0.21-0.39)
- NMDA受容体拮抗薬:0.09 (0.02-0.42)
- プロポフォール:0.07 (0.01-0.36)
- α2刺激薬:0.32 (0.21-0.48)
- β2刺激薬:0.10 (0.03-0.30)
- フェンタニルによるプライミング:0.33 (0.19-0.56)
- フェンタニルの投与速度を下げる:0.25 (0.11-0.58)
- アトロピン:1.10 (0.58-2.11)
- ベンゾジアゼピン:2.04 (1.33-3.13)
つまりが、ベンゾジアゼピンの投与によって、フェンタニル誘起性咳嗽の発生頻度がほぼ2倍に増大したということです。逆効果じゃん。
ここで検証されているのは、フェンタニル誘起性の咳嗽抑制効果ですから、いわゆる自然発生的な咳嗽とは性質が異なると見るべきでしょう。それにしても、アトロピンを除く他の介入はどれもまずまずの抑制効果を示しているだけに、ベンゾジアゼピンの結果が余計に目立つ格好となっています。
他のシチュエーションではどうかと思い、他の文献も調べたところ、Referenceの2番が見つかりました。これの「DISCUSSION」部分には、「Benzodiazepines provide only sedation and amnesia and have no antitussive effects so they are often used in conjunction with opiates.」と記載されています (2)。つまり、ベンゾジアゼピン系薬物には、鎮咳作用はないと断言されてしまいました。やっぱり、こうした目的で使うようなものではないんだなあ・・・。
もっとも、風邪処方にベンゾジアゼピンを加える理由が、鎮咳以外にある可能性も捨てきれないところです。この点については、今後もう少し詳細に調べてみる必要がありそうです。
では、また次回に。
Reference
- Kim JE, et al. Pharmacological and nonpharmacological prevention of fentanyl-induced cough: a meta-analysis. J Anesth. 2014 Apr;28(2):257-66. J Anesth. 2014 Apr;28(2):257-66. PMID: 23958914
- Stolz D, et al. Cough suppression during flexible bronchoscopy using combined sedation with midazolam and hydrocodone: a randomised, double blind, placebo controlled trial. Thorax. 2004 Sep;59(9):773-6. PMID: 15333854