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爪白癬治療薬「ホスラブコナゾール L-リシンエタノール付加物」の効果

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こんにちは、黒田です。


取引している卸業者さんが、投与日数に制限のある新医薬品をリストにしたものを下さいました。その中に、爪白癬治療薬の「ホスラブコナゾール L-リシンエタノール付加物」という見慣れない薬品名を見かけたので、それについてまとめておこうと思います。


 

基本的な情報

まずは、添付文書とインタビューフォームから、この薬物についての基本的な情報を収集します1,2)

 

  • 規格:100mgカプセルのみ
  • 適応症:爪白癬症
  • 用法・用量:1日1回1カプセルを12週間経口投与
  • 禁忌:妊婦。投与中および投与終了後3カ月は避妊を行う必要がある
  • 作用機序:ラブコナゾールのプロドラッグ。エルゴステロール合成阻害作用を示す
  • その他の注意点:一度変色した爪を回復させる効果はないので、投与終了は爪の伸び具合で判断する必要がある


インタビューフォームによれば、日本で20年ぶりに承認された経口爪白癬治療薬だそうです2)。そういえば、このカテゴリの薬物は永らく新規のものが出ていなかった印象がありますが、20年ぶりとは思いませんでした。


ラブコナゾール自体は、ミコナゾール系の抗真菌薬であり、特別に新しい作用機序等を持っているわけではありません。個人的に気になったのは「L-リシンエタノール付加物」の部分ですが、これらは抗真菌活性に関係する薬理作用を持っているのではなさそうです。はっきりしたところは不明ですが、どうも水溶性や生物学的利用能を高める目的で付加されているようです2)


そうなると、既存の経口爪白癬治療薬とあまり違いがないのではないかと予想してしまいます。この点についてどうなのか調べようと思ったのですが、PubMedのClinical Queriesで「Fosravuconazole」を検索すると、ヒットした文献はたったの2つでした。うち1つは純粋な薬物紹介の総説です。ここでは、もう片方のプラセボ対照の第3相RCTを取り上げます3)


 

文献の内容

Summary

 

  • 足母指爪白癬の日本人患者を対象に、ホスラブコナゾール L-リシンエタノール付加物を12週間投与すると、プラセボと比較して、48週時点の完全治癒率が改善するか検討した、二重盲検RCT
  • 実薬群では投与早期から爪の所見は改善し、48週時点では60%程度が完全治癒した
  • 肝逸脱酵素の上昇が多少目立つ他は、明らかに頻度の高い副作用はみられなかった




Study design

  • P: Japanese adult patients with onychomycosis of the great toenail (足母指の爪白癬の日本人患者)
  • E: F-RVCZ (100 mg RVCZ, n = 101) p.o. once daily for 12 weeks (ホスラブコナゾール L-リシンエタノール付加物を1日1回100mg12週経口投与)
  • C: placebo (n = 52) p.o. once daily for 12 weeks (プラセボを1日1回12週経口投与)
  • O: The primary end-point was the rate of complete cure at week 48 (主要評価項目は48週時点の完全治癒率)
  • T: 多施設共同二重盲検RCT

 

  • ランダム化:ブロックランダム化によって行われたとの記載あり
  • ITT解析:FASとPPSの両方で結果が示されている。FASは割り付け人数と同数が解析に含まれているので、事実上ITT解析されていると考えてよさそう



日本で行われた臨床試験なので当然といえば当然だが、用法・用量や投与期間は国内の添付文書記載事項に準拠している。




Result

FAS解析における48週時点の完全治癒率 (主要評価項目) は、実薬群で59.4% (60/101)、プラセボ群で5.8% (3/52) と実薬群で有意改善。


各フォローアップ時点における完全治癒率の時系列変化は下図の通り。24週まではほとんど変化していないが、36週時点くらいから実薬群で急増している。






副作用に関する情報は下表の通り。目立つのはAST・ALT・γ-GTPといった肝臓系酵素の上昇くらいか。






コメント

この試験はプラセボ対照なので、治癒率に関しては他剤との比較はできないことにまずは注意が必要です。上では、作用機序が同一であることから、類似薬物との差があまりないのでは?といった旨を書きましたが、12週の投与で済む点が、差別化のポイントなのでしょう。


文献中には被験者の爪写真も掲載されていますが、12週時点で新たに伸びてきた部分には肉眼的な病変がほとんど認められず、この傾向は48週まで一貫しています。完全治癒率だけみると、24週まではプラセボとほとんど変わらないので、その間は実感できる効果が得られないように思いがちですが、これは治癒率の定義の問題で、実際にはもっと早い段階で自覚できる変化が表れることに注意したいところです。


個人的には、投与期間が12週であることが明記されているのは好ましいと思います。特に高齢者においては内服の爪白癬治療薬は、中止のタイミングが決め難くダラダラと続けてしまいがちだからです。この試験の結果をそのまま受け取るなら、3カ月きっちり服用すれば、1年後におよそ60%の人は完治するということです。期間が決まっている方が、服用する方もその気になりやすいのではないでしょうか。


ともあれ、最初の方でも書いたようにこの薬物を評価した臨床試験が現状ではこれしかないので、今後に得られる知見によっては評価が変わる可能性は十分あり得ることです。それでも、明らかに特徴的な副作用も報告されていませんし、選択肢としては悪くない薬物なのではないでしょうか。


では、また次回に。




Reference

  1. ネイリンカプセル100mg 添付文書 佐藤製薬株式会社
  2. ネイリンカプセル100mg インタビューフォーム 佐藤製薬株式会社
  3. Watanabe S, et al. Efficacy and safety of fosravuconazole L-lysine ethanolate, a novel oral triazole antifungal agent, for the treatment of onychomycosis: A multicenter, double-blind, randomized phase III study. J Dermatol. 2018 Oct;45(10):1151-1159. PMID: 30156314 




 


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