こんにちは、黒田です。
先日、「自律神経失調症」という言葉を耳にする機会がありました。自律神経失調症という病名は、正式には存在しないんだよなーと思いながら聞いていたのですが、そのとき久しぶりにトフィソパムという薬の存在を思い出しました。もう随分と調剤した記憶がない薬ですが、これについて調べたことがなかったことも同時に思い出したため、せっかくなので少し文献を漁ってみることにしました。
見つかった文献
まずPubMedで検索をかけましたが、それらしい論文はヒットしませんでした。いくつか目に留まったのはトフィソパムがCYP3A4を阻害する関係で、何らかの薬物との相互作用が生じる、みたいな内容のものでした。
次に国内の文献を調べるために、J-Stageで検索したところ、それらしい臨床試験が1つ見つかりました。それが文献1です1)。サンプルサイズがかなり小さいので、参考程度に見ておくことにします。
Study design
- P: めまいを主訴に来院した人のうち、緑内障・前立腺肥大・BPPVいずれもない患者
- E: トフィソパム1回50㎎を1日3回経口投与
- C: トフィソパムを投与できなかっためまい患者
- O: めまいの訴えがまったくなくなった場合を著名改善、軽減した場合を改善、変化がなかった場合を無効とする
- T: 非ランダム化の介入試験
上記の通りランダム化は行われていないし、そもそも対照群は合併症などの都合でトフィソパムを投与できなかった患者なので、患者背景が介入群とは異なっている点には注意が必要。
Result
投与開始から2週間後の、各群の改善状況は以下の通り。
トフィソパム投与群
- 著名改善:6名
- 改善:3名
- 無効:6名
トフィソパム非投与群
- 著名改善:2名
- 改善:0名
- 無効:9名
投与・非投与群間でのカイ二乗独立性検定では、有意差が認められたとのこと。副作用については、検討の対象外のようで、特に記載がなかった。
コメント
さきほども書いた通り、投与群15名、非投与群11名とかなり少数での検討となっています。そのため、どちらかといえばパイロット試験の意味合いが強く、結果だけを見てもあまりはっきりしたことはいえないように感じます。非使用群の無効患者のうち数名が改善または著名改善に偏れば、統計学的仮説検定の結果もくつがえり得る範疇でしょう。
結論として、トフィソパムの効果には不明な点も多いが、ないよりはマシ、ということになるでしょうか。ともあれ、これについても副作用についての結果がないので、なんともいえないところです。
その他のトフィソパムの効果
いわゆる自律神経失調症など以外の治療を目的として、トフィソパムが有効かもしれない可能性が示唆されているようです。具体的には、血清尿酸濃度を低下させる効果です2,3)。
といっても、文献2についてはトフィソパムの投与量が通常の倍である300mg/dayになっていること、対象者が健常者5名だけという点、文献3では言及されている薬物がレボトフィソパム (光学異性体かな?) である点を、それぞれ割引いて考える必要はないでしょう。加えて、これらの文献はそれぞれ2013年と2014年のもので、これ以降トフィソパムの尿酸値に対する効果について言及した、目立った文献は出てきていないようです。ひょっとしたら思ったような結果が出ず、ひっそりと寝かされている状態なのかもしれませんが、いずれにせよ、現時点ではまだ可能性があるレベルと考える必要があるでしょう。
では、また次回に。
Reference
- 松吉 秀武ほか 自律神経失調と起立性調節障害を伴うめまい症例についての臨床的検討 Equilibrium Research 2006 65(4):238-244.
- 角田 千尋ほか トフィソパムによる尿酸低下作用 痛風と核酸代謝 2013 37(1):45.
- Edwards NL, et al. Emerging therapies for gout. Rheum Dis Clin North Am. 2014 May;40(2):375-87. PMID: 24703353