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歯磨きで薬剤性歯肉肥厚を予防することは可能か?

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こんにちは、黒田です。





先日、薬理学の本を読んでいたらカルシウム拮抗薬の副作用として歯肉肥厚が記載されていました。それはいいのですが、そこに「適切に歯磨きをすることで予防できる」といった旨の内容が併記されていました。もちろん、歯磨きは大切ですがそれで予防可能な副作用か?と問われれば、何となく違う気もします。


そこで、薬剤誘起性の歯肉肥厚について総説を読んでみることにしました。文献1が分子生物学的な機序について詳しかったので、まずはここから重要な点を抜粋します1)

 

総説の内容

  • 薬剤誘発性歯肉肥厚を生じやすい薬物として、ニフェジピン・フェニトイン・シクロスポリンが知られている
  • 歯肉肥厚によって、感染や炎症性合併症のリスクが増大する他、咀嚼困難・外観の悪化などが問題となる
  • 非外科的なアプローチとして、細菌の除去により臨床病変のサイズを最大で40%縮小することが可能である
  • 原因となる薬物を変更しない場合、外科的な切除を行っても再発することが多く、繰り返し外科的介入を要する
  • 薬物とは無関係に、歯周外科手術後18カ月で34%が再発を認めたとするデータがある
  • レーザー切除など一部の処置方法は、従来のそれと比較して再発を減少させる可能性がある
  • 歯肉肥厚自体は、直接的に生命を脅かすものではないが、患者のQOLは明らかに低下する
  • アジスロマイシンは歯肉繊維芽細胞に直接作用すると考えられていることから、歯肉肥厚への効果が期待されるが、詳細な作用機序や具体的な治療成績などは明らかでない

 

  • フェニトイン・ニフェジピン・シクロスポリン誘起性の歯肉肥厚では、その細胞・組織学的特徴が明らかに異なることが知られている
  • フェニトイン誘起性は、もっとも線維性が高い
  • シクロスポリン誘起性は、高度な炎症が認められる一方、線維化はほとんど認められない
  • ニフェジピン誘起性は、フェニトイン・シクロスポリンの中間的な組織学的特徴である
  • 細胞外マトリクスを合成・蓄積するTGF-βおよびCCN2 (結合組織成長因子) が、フェニトイン誘起性歯肉肥厚において発現増加していた
  • ニフェジピン誘起性歯肉肥厚では、線維化マーカーであるペリオスチン (マトリックス細胞タンパク質の一種) がアップレギュレートされていることが同定されている
  • シクロスポリン誘起性歯肉肥厚において、炎症が高度で線維化が低度である詳細な理由は明らかでない



 

対処法・治療法は?


上記のレビューでは、アジスロマイシンやスタチンが生化学的に薬剤誘起性歯肉肥厚に有効である可能性が示唆されています。とはいえ、現状ではいくつかの試験等で実験レベルで検証されているくらいで、確立した治療法とは到底いえないでしょう。


そうなると、原因と推定される薬物を継続しながら上乗せで何かをして治療、というわけにはなかなかいかず、原因薬物の中止がもっとも現実的な対処になると思われます。実際、症例報告を見るとこうしたアプローチで改善したケースがあります2)。この文献2には病変の写真が掲載されているので、興味のある方はPMIDを打ち込んで見ていただけるとよいのですが、相当な重症例といえます。しかし、原因薬物 (この場合はフェニトイン) を中止して18カ月で目に見えて症状が改善していますから、やはり中止がもっとも確実なのでしょう。


ちなみに、当初の疑問であった歯磨きをすれば薬剤誘起性歯肉肥厚を回避できるか?ですが、細菌感染等に伴う炎症だけならまだしも、分子生物学レベルでの組織の線維化を伴う病態に対して、歯磨きだけでは到底太刀打ちできないでしょう。もちろん、やっておいた方がよいことは確実でしょうが、これは基本としてそれプラスアルファの対応が必要なのが普通と考えるべきと思います。


では、また次回に。



Reference

  1. Trackman PC, et al. Molecular and clinical aspects of drug-induced gingival overgrowth. J Dent Res. 2015 Apr;94(4):540-6. PMID: 25680368
  2. Kumar R, et al. Phenytoin-induced severe gingival overgrowth in a child. BMJ Case Rep. 2014 Jul 21;2014. PMID: 25053668
     

 


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