こんにちは、黒田です。
血管性浮腫と思われる症例を経験しました。基本的には、蕁麻疹に準じた治療を行うと理解していましたが、この疾患についてあまり詳しく調べたことがなかったので、この機会に興味を持ったポイントをまとめておくことにします。
血管性浮腫の病態生理と蕁麻疹との違い
まず、血管性浮腫がどのような病態生理にもとづいているのか復習します1,2)。
- 血管性浮腫は、血管透過性の亢進によって真皮深層から皮下組織にかけて生じる浮腫である
- 通常は、限局性である
- 血管透過性亢進の原因となり得るメディエーターとして、ヒスタミン・ロイコトリエン・プロスタグランジンなどの肥満細胞由来の物質、ブラジキニンなどが挙げられる
- 急性血管性浮腫の大部分は肥満細胞介在性である
- 急性血管性浮腫の最大30%が、ACE阻害剤が原因と考えられている
- 慢性血管性浮腫 (6週を超えるもの) は、通常原因不明である
- 一部、C1インフビターの欠損または機能不全によって生じる血管性浮腫もある
- 浮腫は通常非対称で、軽度の疼痛を自覚することも多い
- 浮腫が生じやすい部位は、顔面・口唇・舌などで、手・足の甲・生殖器に生じるケースもある
- 介在するメディエーターの種類によって臨床像・症状も異なり、ヒスタミンが関与する場合は持続時間が数分~数時間で掻痒等の他のアレルギー症状を示すことが多く、ブラジキニンが関与する場合は持続時間がす時間~数日と長く他のアレルギー症状を伴わないことが多い
- 治療は、肥満細胞介在性では抗ヒスタミン薬・副腎皮質ステロイドなどを、ブラジキニン介在性の場合は、高用量の抗ヒスタミン薬などが用いられる
つまりが、基本的な病態生理は蕁麻疹と類似していて、表皮に生じるのが蕁麻疹、真皮~皮下組織にかけて生じるのが血管性浮腫ということのようです (でいいのかな?)。現在、ブラジキニンを直接どうにかできる薬物には利用可能なものがないので、治療薬は抗ヒスタミン薬がメインの位置づけになっているようです。
ACE阻害剤の血管性浮腫は有名ではありますが、こちらはブラジキニン介在性ですから自覚症状が分かりにくい可能性がありそうです。掻痒よりも浮腫や疼痛の有無を聴取した方が、副作用のスクリーニングではいいのかもしれません。
ヒスタミンH1受容体拮抗薬とH2拮抗薬の併用は効くのか?
皮膚科領域の抗ヒスタミン薬に関しては、以前からちょっと疑問に思っていたことがありました。よくある、H1拮抗薬を使って効果不十分だったときにH2拮抗薬を上乗せする、アレです。調べてみようとは思っていたのですが、それだけで1つの記事を立てるほどの情報量がなさそうだったので、痛し痒しで扱いに困っていました。ちょうどいいので、ここで取り上げることにします。
結論からいうと、それなりに効果があるようです。さきほど引用した文献2にその旨が記載されていたほか、蕁麻疹についてはコクランのシステマティックレビューが出ており、こちらでもポジティブな結果が示されています3)。具体的には、ジフェンヒドラミン+ラニチジンとジフェンヒドラミン単独を比較した場合、併用群で蕁麻疹改善のリスク比 (?) が1.59 (95%CI: 1.07-2.36) とのことです。統計学的にはギリギリな有意差ですが、まあ悪くはないでしょう。
血管性浮腫についても、基本的な病態生理は同様なので、常識的に考えれば効くはずと思われます。現状では、積極的に推奨すべきとまではいえませんが、難治の症例では試してみる価値はあるのではないでしょうか。
では、また次回に。
Reference
- MSDマニュアル プロフェッショナル版 https://www.msdmanuals.com/ja-jp
- Muller BA, Urticaria and angioedema: a practical approach. Am Fam Physician. 2004 Mar 1;69(5):1123-8. PMID: 15023012
- Fedorowicz Z, et al. Histamine H2-receptor antagonists for urticaria. Cochrane Database Syst Rev. 2012 Mar 14;(3):CD008596. PMID: 22419335