こんにちは、黒田です。
薬剤師や薬学生にとっては周知の事実ですが、グレープフルーツジュースは複数の薬物と相互作用を生じます。具体的には、主にCYP3A4によって代謝される薬物の生物学的利用能を増大させるので、該当する薬物を服用する際には、グレープフルーツジュースの摂取を控えるように服薬指導を行うことも、よくあります。
しかし、これについては以前から疑問を持っていました。なぜ、ジュースに限定されているのか?です。どういうわけか、どの文献や書籍を見ても「グレープフルーツジュースとの併用を避けること」などとしか書かれておらず、「グレープフルーツを食べないこと」とはなっていません。これを文字通り解釈すれば、「ジュースの形にしたものはダメだが、未加工の果物としてのグレープフルーツは食べてもOK」とも読めます。
もしそうだとするならば、グレープフルーツをジュースに加工する過程で、CYP3A4を阻害する物質が生成されると考えるのが妥当ということになります。とはいえ、果物をジュースにするときに行う作業は、すり潰すなどの物理的なものがほとんどでしょうから、これによって果実に含まれる何かが化学変化を起こすということは、ちょっと考えにくいと思いますが・・・。
などと疑問が尽きないので、この機会に調べてみることにします。
果実の摂取でも相互作用を起こしうる
そこで文献を検索したところ、ドンピシャなものを発見しました。文献1です。結論から記載しますと、果実のグレープフルーツを食べた場合でも、CYP3A4の阻害は起こりえるようです。この文献ではフェロジピンのAUCが測定されていますが、グレープフルーツジュース・グレープフルーツ切片・グレープフルーツ抽出物のいずれも、水と比較して平均3倍、これを増大させたとのことです (グレープフルーツジュースとグレープフルーツ抽出物の違いがややわかりませんが・・・ほかの成分を添加しているかいないかの差でしょうか)。
ということは、CYP3A4を阻害する物質は、グレープフルーツ果実にもともと含まれているものであり、ジュースへの加工過程で生じるものではないということになります (プラスアルファでほかの阻害活性がある物質が出来ている可能性はありますが)。
原因物質は特定されていない?
ついでなので、もう1つ前から気になっていたことを調べておきます。グレープフルーツジュースに含まれる、CYP3A4阻害活性を持つ物質は何なのか?です。生薬学や薬用植物学の講義では、植物に含まれる生理活性物質を山ほど教わりましたが、そうしたなかでも「グレープフルーツジュースに含まれる、薬物と相互作用を起こす物質はこれです」と明確に示された記憶がありませんし、本などでも読んだことがありません。
グレープフルーツジュースネタついでにこの点も調べてみたのですが、どうもどの物質が活性阻害本体であるかは、いまだに明らかになっていないようです。文献2によれば、以下のような物質が活性に寄与している可能性が示唆されています。
- ナリンギン (フラボノイドの一種)
- 6',7'-ジヒドロキシベルガモッチン (フラノクマリンの一種)
しかし、これらはいずれも単独でグレープフルーツジュースのCYP3A4阻害活性を説明できるものではないとのことです。おそらくは、ほかに活性の高い物質が別にあるのか、こうした複数の成分の相加的あるいは相乗的な効果によって酵素阻害が生じているのでしょう。まだ検証中の課題のようなので、時間がたったら再び調べてみたいと思います。
その他の重要な点
同じく文献2には、グレープフルーツジュースの臨床におけるトピックがいくつも書かれていましたので、下に特に重要そうな点を抜粋します。
- グレープフルーツジュースのCYP阻害活性が発見されたきっかけは、実験的にエタノールを摂取する際の苦みを軽減するためにこれを飲用したことである
- グレープフルーツジュースが阻害するのは主に小腸細胞のCYP3A4である。したがって、基質となる薬物のCmax、AUCを増大させる
- 肝臓のCYP3A4に対する影響はほとんどない。したがって、静注されたCYP3A4の基質となる薬物の半減期には基本的に影響を与えない
- CYP3A4阻害のメカニズムは酵素分解促進であると推定されている。そのため、CYP3A4活性回復には同酵素のde novo合成が必要であり、影響が長期化することが予想される
- グレープフルーツジュースのCYP3A4阻害活性には、用量依存性が認められる
- ジュースのブランドやロットによって、薬物相互作用の程度が異なる場合がある
どうやら、グレープフルーツジュースと薬物の相互作用に関しては、条件によってその程度がかなりばらつくようで事前に影響の度合いを見積もることがかなり難しそうです。これは、「このくらいなら摂取してもOK」という線引きをすることが事実上不可能であるとも言い換えられます。そもそも、薬理学の実験などの経験からいえば、阻害剤はほんの少し加えただけでも目に見えて酵素の活性を減弱させますから、血中濃度やAUCの管理が重要な薬物を内服するときには、おいそれとグレープフルーツジュースを飲むことを認めるわけにはいかないようです。
もっとも、日本においてはグレープフルーツジュースを日常的に飲む人はそれほど多数派ではないでしょうが、ついうっかり飲んでしまわないように、必要な情報を伝えることは重要と再認識しました。
では、また次回に。
Reference
- Bailey DG, et al. Grapefruit-felodipine interaction: effect of unprocessed fruit and probable active ingredients. Clin Pharmacol Ther. 2000 Nov;68(5):468-77. PMID: 11103749
- Bailey DG, et al. Grapefruit juice-drug interactions. Br J Clin Pharmacol. 1998 Aug;46(2):101-10. PMID: 9723817