こんにちは、黒田です。
どこで目にしたのかは忘れてしまったのですが、かなり前に「咳をすると1回あたり2kcalを消費する」という旨の記載を見た記憶があります。当時は「へーそうなんだ、結構消耗するものなんだな」くらいにしか思っていなかったのですが、現実には咳のし過ぎで体重減少を起こしたというケースは聞きません。また、そもそも「咳1回=2kcal」という情報自体、どこまで信用してよいのかわからないところがあります。
そこで今回は、こうした咳と消費カロリーに関して調べた内容をまとめることにします。
咳1回=2kcalは確かそう
手始めに、PubMedで「cough calorie」で検索をかけましたが、求めている情報を含んでいそうな文献はヒットしませんでした。続いて、J-Stageで「咳 カロリー」などのキーワードで検索しましたが、こちらもそれらしいものは出てきませんでした。
しかたがないので、普通のインターネット検索で「咳 2kcal」で検索したところ、上記の「咳1回で2kcal消費する」という内容が書かれたページが多数でてきました。その中には、匿名個人の雑記程度のものもあれば、医師監修のコラムや医療機関のホームページといった、それなりに信頼がおけそうなものもありました。
こうしたことから、「咳1回=2kcal」説はまったくの与太話ではないと推定されます。しかしながら、これらのページはどれも「~といわれています」とか「~だそうです」といった伝聞系あるいは断定を避けるような記載の仕方で、明確な根拠をもって書いているわけではないことも伺われました。医療関係者が書いたと思われるページでも、咳の消費カロリーについて出典が明記されているものは、軽く調べた範囲ではありませんでした。
そこで、きちんと引用文献を記載しているものがないかさらに調べたところ、ありました。文献1です。『呼吸器系の症状の一つである咳は1回2kcalを消費する』と明記され、その根拠として『シスター・カリスタ・ロイ.第5章 酸素摂取.ザ・ロイ適応看護モデル.第2版第2刷.松木光子監訳.医学書院、東京、2010、p141-156』が引用されています1)。この引用文献は成書のようで、あいにく手元にないものですからこの目で見ることは叶いませんが、同書は看護学の教科書と思われ、信用してよいものでしょう。
以上のことから、病態等による変動はあるにせよ、一般論として「咳1回=2kcal」は正しい情報と考えて問題なさそうです。
咳によって体重が減るのか?
さて、こうなるともう少し考えたくなります。冒頭でも少し触れた、「咳をたくさんすると体重減少につながるのでは?」という問題です。
1日あたりの咳の回数を数える機会はそれほどないと思いますが、ここではシミュレーションとして1日100回咳をするケースを考えます。これは、1日16時間活動するとした場合、1時間あたり6回程度の咳をする計算ですから、上気道炎の急性期などでは十分にあり得る数字でしょう。
この場合、咳による1日あたりの消費カロリーは200kcalとなります。文献2として挙げたホームページに記載されたカロリー表によれば、これは一人分の肉まんやシュークリームにほぼ相当します2)。ということは、咳を100回することは、これらの食べ物を我慢することと同じ意味になりますから、結構なダイエット効果があるような気もします。
しかしながらここで文献3を紐解くと、「1gの体重変化は、7kcalに相当する」とあります3)。各栄養素のアトウォーター係数は糖質とタンパク質で4kcal/g、脂質で7kcal/gですから、これらをおしなべた数字としては妥当で、信頼できる情報でしょう。ここから計算すれば200kcalは、200÷7=28.6gの体重変化に相当します。
以上をまとめると、咳を1日100回すると消費カロリーは200kcalとなり、これがすべて体重減少に使用された場合でも体重は30g弱しか減らない、ということです。普通の体重計でこの変化を検出するのは無理ですし、ここでの咳回数は呼吸器系疾患の急性期を想定したもので、せいぜい数日くらいしか続かないものです。そこからは症状が改善し、咳の回数も減ってきますから消費カロリーも経時的に減少します。したがって、咳をすることによる消費カロリーは中長期的にはほとんど無視できるレベルであり、「咳をして痩せる」ことは非現実的と考えられます。もっとも、好きこのんでこうした方法をとる人はまずいないと思われますが・・・。
ともあれ、短期的には咳1回あたりの2kcal消費はつらいことに変わりはありません。そうした意味においても、適切な鎮咳薬の使用による咳症状のコントロールが重要であることは再確認できました。
では、また次回に。
Reference
- 森みさ子 栄養アセスメントの重要性とピットホール 栄養アセスメント 看護師の立場から. 静脈経腸栄養 27(3):2012 885-894.
- https://www.tanita.co.jp/content/calorism/table/index2.html
- 飯野靖彦 編 増刊レジデントノート輸液療法パーフェクト 羊土社