こんにちは、黒田です。
取引をしている卸の担当者さんから、新発売されたスポーツドリンク (?) について紹介していただきました。その商品をパンフレットをもらったのですが、それによればこの飲料には「B240」なる乳酸菌が含まれているとのこと。しかも、「B240を摂取することで、プラセボと比較して風邪のリスクが低下する」とまで記載されています。
一緒に示されている図を見ると、目測で17-18%程度の罹患割合低下を示しています。さすがに本当かよ?と思うところもありますので、ソースとなった文献にあたってみることにしました。
乳酸菌B240とは?
本題に入る前に、件の「乳酸菌B240」とはいかなる菌なのか。文献の導入部分によれば、次のことが知られているそうです (1)。
- 発酵させた茶葉から単離された、嫌気性グラム陽性菌
- 他の乳酸菌との比較で、マウス細胞からのIgA分泌能を向上させる作用がもっとも強かった
- 熱処理したB240を経口摂取することで、唾液中のIgA量が有意に増加した、ヒト対象の研究が存在する
といった感じです。つまりが、上で取り上げた風邪予防効果とは、分泌型免疫グロブリンであるIgAの量を増加させることによると考えられているのでしょう。また、熱処理した場合にもこうした作用が認められているようで、死菌状態でも効果があるようです。まとめれば、乳酸菌のうちIgA分泌増加能が他のものと比較して高い株、と思っておけばよいでしょう。
問題の文献
Summary
- 高齢者を対象に、乳酸菌B240を摂取してもらうと、プラセボと比較して、風邪の発症が減少するか検討した、二重盲検RCT
- B240投与により、用量依存的な風邪発症率低下が認められた
- QOLスコアについては、群間に大きな差異はなかった
Study design
- P: 300 eligible elderly adults (高齢者300名)
- E: low-dose and high-dose b240 groups were given tablets containing 2 × 10(9) or 2 × 10(10) cells (B240含有の錠剤を経口投与。低用量は20億株/day、高用量は200億株/day)
- C: placebo (プラセボ)
- O: occurrence of the common cold (風邪の発症率)
- T: randomised, double-blind, placebo-controlled trial (二重盲検RCT)
ランダム化について:ランダム化の具体的な手法については記載が見つからなかったが、下表の通り重要と思われる患者背景に大きな偏りはなし。また、リクルートの段階で喫煙者・自己免疫性疾患患者・COPDや気管支喘息などのメジャーな呼吸器系疾患患者は除外されている。総じて、大きな問題なしと思われる。
ITT解析について:解析段階で除外例があり、厳密な意味でのITT解析ではない様子。ともあれ、各群とも割付人数の90%以上が解析に加えられているため、除外によって結果に著しい影響を与えることはないと推定される。
風邪発症の判定については、次のようなステップが踏まれている。
- 個々の患者に、上気道感染に関連する症状および体温に関する日誌をつけてもらう (症状は4段階から選択する)
- 週1回、患者日誌を研究本部に送る
- 同様に週1回、看護師が被検者を訪問し、日誌の内容を確認する
- 第0、2、4、8、12、16、20週に被験者が研究本部に訪問、医師のインタビューを受ける
- 風邪症状は、複数の症状スコアを用いて評価する
- 発熱の定義は、研究期間中の患者ごとの平均体温から0.5℃以上の上昇を認めること
- 最終的に、感染症を専門とする医師4名を含む専門家集団によって、各症例が精査され、風邪の判定を行う
このように、可能な限り客観的な指標を用いるよう努力されている。また、上で触れたように介入の期間は20週。
Result
主要評価項目である風邪発症については、下表の通り。ここでの検定は、コクラン=アーミテージ検定で有意水準を下回っているので、投与するB240菌数と風邪発症率に有意な傾向性が認められる、と解釈できる。ちなみに、FASでもPPSでも結果はほとんど同じ。
プロットすると下のようになるそうです。印象としては4週目くらいまでは明確な差がなく、それ以降に徐々に群間の差異が出てくる感じでしょうか。
副次評価項目として、各種QOLスコアが測定されています。こちらは群間で明確な差がなかったとのこと (一応、一部で有意差がついている項目はありますが)。
副作用については、図表が示されていません。本文中に、いずれの群でも特にそれらしいものが認められなかったと記載されています。
コメント
この手の試験では、評価項目の測定方法が問題となることが多い印象がありますが、本試験ではかなり力の入った判定が行われており、この点では問題が少ないと思います。
結果としてもおおむね良好と評価してよいと思います。低用量群でもプラセボ比較でARRが10.1%ありますから、NNT=10となります。この数値だけなら、自分自身でも摂取してみようかと思えるほどです (冒頭でパンフから読み取ったリスク低下率は、さすがに過大評価だったようですが)。一方で、QOLスコアに変化がなかったことも地味に興味深いところです。結構、風邪の発症が減ったのであればこちらも連動して改善しそうなものですが・・・。ひょっとすると、この試験の対象が高齢者であることが影響しているのかもしれません。
さて、この試験で一番わからないのは、1日あたり20億または200億というB240の菌数が、果たして多いのか少ないのか?ということです。この試験の結果だけみれば、ある程度の用量依存性はあると思われますから、どのくらいの量を摂取できるかは重要と考えられます。
そこで、件のスポーツドリンクのホームページ等を見てみたのですが、肝心の含有菌量についての記載が見つかりません。うーむ、これでは「B240は入っているけれど、実は数が全然足りない」という可能性も出てきてしまうのですが・・・。現時点ではこれ以上は不明です。追加の情報を入手できたら、更新するかもしれません。
では、また次回に。
Reference
- Shinkai S, et al. Immunoprotective effects of oral intake of heat-killed Lactobacillus pentosus strain b240 in elderly adults: a randomised, double-blind, placebo-controlled trial. Br J Nutr. 2013 May 28;109(10):1856-65. PMID: 22947249