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パーキンソン病に対するラサギリンの効果

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こんにちは、黒田です。


薬局で仕入れている三環系抗うつ薬のメーカーから、添付文書改訂情報が届きました。併用禁忌にラサギリンが追加された旨の連絡です。


そういえば、いつかに新規のMAO-B阻害薬が発売されたと聞いた記憶がありましたが、これのことだったようです。しかし、既存のMAO-B阻害薬であるセレギリンとどのような違いがあるのかまったく知識がないので、この機会に調べてみることにしました。


 

ラサギリンに関する基礎知識

まずは、ラサギリンに関する基本的な情報を添付文書を参照にして整理します (1)。

 

  • 適応症:パーキンソン病
  • 用法用量:1日1回1mgを経口投与
  • 作用機序:選択的かつ非可逆的なMAO-B阻害作用により、線条体における細胞外ドパミン濃度を増加させる
  • 併用禁忌:他のMAO阻害剤、ペチジン、トラマドール、タペンタドール、三環系抗うつ薬、四環系抗うつ薬、SSRI、SNRI、選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害剤 (アトモキセチン)、NaSSA



おおむね、セレギリンと類似していると考えてよいでしょう。併用禁忌が非常に多いのも変わらず。特に、トラマドールあたりは整形外科などから処方されていることも多いので、併用薬や受診行動の確認が重要となりそうです。


一方で、セレギリンとの差異としてはレボドパ製剤の併用等に関係なく、用量が基本的に固定であることでしょうか。また、セレギリンは用量が増した場合には1日2回投与となることがあるのに対し、ラサギリンは1日1回が変わらないので、服用は幾分簡便になるでしょう。


細かいところでいえば、セレギリンはHoehn-Yahr分類でステージⅠ~Ⅳまでしか適応がないことになっていますが、ラサギリンにはこうした制限がありません。ただ、これについてはどうなのでしょう。私はYahr分類でステージⅤになるような重症パーキンソン病患者を担当したことがないので、そうしたケースでの一般的な薬物治療がどのようにされるのかよくわかりませんが、ステージⅤでもガッツリとした投薬はするものなのでしょうか?このあたりがちょっと不明なので、ステージⅤへの適応の有無がどの程度これらの薬物の評価に影響するのか、私個人としては評価しかねます。


ついでなので、日常的にパーキンソン病に触れていないと忘れがちな、Hoehn-Yahr分類についてもまとめておきます (2)。重症度分類で、ステージⅠ~Ⅴまでの5段階、数字が大きいほど重症となります。
 

  • ステージⅠ:症状は片側性で、機能的障害はない or あっても軽度
  • ステージⅡ:症状が両側性であるが、姿勢保持の障害はない。日常生活・仕事に障害があっても行いうる程度
  • ステージⅢ:立ち直り反射に障害が生じる。機能的障害は軽度~中等度で仕事も内容によっては可能。まだ自活が可能
  • ステージⅣ:機能的障害が重篤で、自活が困難となるが、支えられずに立つこと・歩くことは何とか可能
  • ステージⅤ:立つことも不可能で、介助なしの場合は寝たきり or 車いすでの生活を強いられる




 

ラサギリンとセレギリンの比較

2つのMAO-B阻害薬の特徴は、ここまでまとめた通りですが、おおむね類似しているといってよいでしょう (作用機序が共通しているのだから、ある意味当然ですが・・・)。では、実際の治療効果には特記すべき差があるのでしょうか?調べてみると、これら2つの薬剤+いずれの使用もなしの3群での治療効果を検討した、症例-対照研究を見つけたので読んでみます (3)。



Summary

 

  • パーキンソン病患者で、ラサギリンおよびセレギリンを使用していると、使用しない場合と比較して、UPDRSスコア等が異なるか検討した、症例-対照研究
  • 各群の条件は、かなりよくそろっている
  • UPDRSスコア全体で評価すると、各MAO-B阻害薬とコントロール間で有意差がなかった
  • ジスキネジーおよび併用するレボドパ用量は、実薬群でコントロール群に対し有意な改善を認めた
  • 実薬群間に特記すべき差異はなかった






Study design

  • P: パーキンソン病患者
  • E1: ラサギリン
  • E2: セレギリン
  • C: いずれの薬物も使用しない
  • O: Unified PD Rating ScaleおよびHoehn-Yahrの重症度分類
  • T: 症例-対照研究



おおまかな研究の流れとしては、上記E1、E2およびCの条件でデータを収集した後、性別・パーキンソン病罹患機関・年齢でマッチングを行い、サンプルサイズ1:1:2として解析を行う、というもの。


表が長大なので載せられないが、解析対象となったマッチング後の各群は、UPDRSスコア、併用しているレボドパの用量、機能的障害などのパラメータもよくそろっている。比較の結果は、かなり信頼できそうな感じ。






Result


各MAO-B阻害薬の用量については、セレギリン群はおよそ80%が5mg/dayを使用、一方のラサギリン群は全員が1mg/dayを使用。おおむね、日本における標準的な用量で比較されているとみなしてよさそう。


UPDRSスコアについては3群間でパーキンソン病症状の進行度合いに有意差がなかった。一方、ジスキネジーに関してはMAO-B阻害薬日使用群に対し、使用群で有意なスコア上昇の抑制および追跡期間における症状発現率の低下が認められた (下図)。2つのMAO-B阻害薬群間では、こうした効果に有意差がなかった。また、MAO-B使用の2群は、非使用群と比較して同等~2倍程度レボドパの投与量を減少させた (ベースラインでは平均値が各群350mg/day程度に対し、解析時点で非投与群は239mg/day、ラサギリン群・セレギリン群でそれぞれ116・153mg/day)。









コメント


治療効果に関しては、セレギリンとラサギリンの間に、大きな差異は現時点で見つかっていないと考えてよいでしょう。




では、また次回に。




Reference

  1. アジレクト錠 添付文書 武田薬品工業株式会社
  2. http://www.gifuyaku.or.jp/pakinson.PDF
  3. Cereda E, et al. Efficacy of rasagiline and selegiline in Parkinson's disease: a head-to-head 3-year retrospective case-control study. J Neurol. 2017 Jun;264(6):1254-1263. PMID: 28550482



 


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