こんにちは、黒田です。
お薬手帳などを見ていると、プロトンポンプ阻害剤 (PPI) を1日2回で服用している人にときどき遭遇します。現在、日本で流通しているPPIはピロリ除菌を除けば通常、1日1回で使用するものなので、これってなんでかなーと思っていましたので、ツイッターで以下のツイートを行いました。
黒田真生(Naoki Kuroda)@intelli_pharmcy
ピロリの除菌時以外に、PPIを分2で使うメリットってなんかあったっけ?
2018年11月15日 10:15
すると、知り合いの先生から文献1の存在をご教授いただけました。これを端緒に、今回はPPIの1日2回使用について調べてみることにします。
PPIの効能効果に関する基本情報
添付文書における、各種PPIの効能効果は、現時点で以下が挙げられます (2-5)。
- 胃潰瘍
- 十二指腸潰瘍
- 吻合部潰瘍
- 逆流性食道炎
- 非びらん性胃食道逆流症
- Zollinger-Ellison症候群
- 各種疾患におけるヘリコバクター・ピロリ除菌補助
- 非ステロイド性抗炎症薬投与時における胃潰瘍又は十二指腸潰瘍の再発抑制
- 低用量アスピリン投与時における胃潰瘍又は十二指腸潰瘍の再発抑制
剤形やPPIの種類によっては、上記の効能効果があったりなかったりしますが、おおむね共通しているといえます。これらのうち、1日2回投与が添付文書上で明記されているのは、「7」を除けばラベプラゾールの「4」だけです。ということは、ラベプラゾールに関していえば、1日2回投与でも一定以上の効果があることがすでに知られているのでしょう。
PPIの1日2回使用に関する文献たち
さて、以上を踏まえたうえでPPIの1日2回投与に関する文献をいつかピックアップしてみます。純粋な臨床試験というよりは実験的な側面を含んだ報告も多いので、概要を列挙する形となります。
文献1
ピロリ菌非感染の健康男性ボランティアによる、クロスオーバー試験。ラベプラゾールを以下の3用法で服用し、胃内pHを測定。
- 10mgを1日1回
- 20mgを1日1回
- 10mgを1日2回
1日1回投与間での比較では、10mgと20mgで胃内pH中央値およびpH>4保持時間割合に有意差がなかった。1日20mg投与間での比較では、前述のパラーメータは1日2回投与の方が有意に高かった。
文献6
健康な男性ボランティアに、以下の用法でオメプラゾールを投与し、食道および胃のpHをモニターした試験。ちなみに、服用はいずれも食前。
- 20mgを1日2回
- 40mgを朝1回
- 40mgを夕1回
いずれの用法でも、食道および胃内pHはベースラインから有意上昇。しかしながら、被験者19人中15人が1日1回と比較して、2回の方が胃酸抑制の度合いが高かった。
文献7
健康男性ボランティア32名に、諸々の用法用量でランソプラゾールを5日連続投与し、胃酸分泌抑制の度合いを測定した試験。30mgを1日1回と、15mgを1日2回とで比較した場合、時間帯における多少の大小関係はあったものの、24時間平均では胃内pHにほとんど差がなかった。
文献8
一般的な臨床試験です。アクセス権の関係で抄録しか参照できませんので、詳しいデザイン等は不明。アウトラインはRCTっぽい書き方ですが、ランダム化されているかは読み取れませんでした。
- P: 胃食道逆流症患者
- E1: ラベプラゾール20mgを1日1回服用
- E2: ラベプラゾール10mgを1日2回服用
- E3: オメプラゾール20mgを1日1回服用
- O: 内視鏡評価による食道粘膜の治癒
- T: 二重盲検であることは記載されているが、ランダム化されているかは抄録からは不明
PP・ITTどちらの解析でも、食道粘膜治癒率は3群で同等であった。副作用についても、群間に明らかな差はなかった。
このように、胃内pHなどの代用エンドポイントレベルでは、1日2回投与でいくらか優れた結果が認められる一方で、より真のエンドポイントに近い評価項目での検討では、投与法による差異はあまり大きくないようです。同じようなデザインの試験を、対象疾患や薬剤を変更して何度か行えば、ある程度の差が検出されることもあり得ると思いますが、今回調べた範囲では1日2回投与に明らかな優位性があるとはいえないと思います。
また1日2回服用する場合、服用の手間が増す分、飲み忘れ等も増えると思います。こうしたこともあるので、多少1日2回が有利な条件でもやはり一長一短になるのではないでしょうか。当面は、患者の都合なども考慮しつつ、あまりこだわらない姿勢でいればよいと思われます。
では、また次回に。
Reference
- Shimatani T, et al. Rabeprazole 10 mg twice daily is superior to 20 mg once daily for night-time gastric acid suppression. Aliment Pharmacol Ther. 2004 Jan 1;19(1):113-22. PMID: 14687173
- オメプラール錠 添付文書 アストラゼネカ株式会社
- ネキシウムカプセル 添付文書 アストラゼネカ株式会社
- パリエット錠 添付文書 エーザイ株式会社
- タケプロンカプセル 添付文書 武田薬品工業株式会社
- Kuo B, et al. Optimal dosing of omeprazole 40 mg daily: effects on gastric and esophageal pH and serum gastrin in healthy controls. Am J Gastroenterol. 1996 Aug;91(8):1532-8. PMID: 8759656
- Blum RA, et al. Dose-response relationship of lansoprazole to gastric acid antisecretory effects. Aliment Pharmacol Ther. 1998 Apr;12(4):321-7. PMID: 9690720
- Delchier JC, et al. Rabeprazole, 20 mg once daily or 10 mg twice daily, is equivalent to omeprazole, 20 mg once daily, in the healing of erosive gastrooesophageal reflux disease. Scand J Gastroenterol. 2000 Dec;35(12):1245-50.