こんにちは、黒田です。
解熱剤・鎮痛剤としてアセトアミノフェンは汎用されています。あるときふと気づいたのですが、この薬物の添付文書には、『空腹時の投与は避けさせることが望ましい』と記載されています1)。そういえば、ずいぶん前に「NSAIDsの空腹時投与で消化管障害が増加されるとされているので、薬効の類似するアセトアミノフェンにも同様の注意書きがされているんだ」といった説明を耳にしたような気がします。
当時はまあそんなものなのかな、くらいに思っていたのですが、アセトアミノフェンにはCOX阻害作用は基本的にありませんので (COX-3を阻害するという報告もありますが、胃腸障害には通常関係ないので、ここでは無視します)、上のような説明は当たらないとも感じます。実際に、アセトアミノフェンを空腹時服用すると何か不都合が生じるのでしょうか?今回は、このテーマについて調べることにします。
インタビューフォームからは特に情報なし
まずは、服用時における食事の影響に関するデータを知るために、アセトアミノフェンのインタビューフォームを参照しました。「食事・併用薬の影響」の項には、次のように書かれていました2)。
『糖分の多い餡、クラッカー、ゼリーや炭水化物を多く含む食事とともに服用すると、炭水化物と複合体を形成してアセトアミノフェンの初期吸収速度が減少する。吸収量は変わらないが、急速な効果を望むときはこれらとともに服用しない方がよい。 』
これ以外には記載はありません。上記の複合体形成以外にも、食事によりGERが減少しますから、一部例外を除いて食後服用では薬物の吸収速度は低下します。つまり、アセトアミノフェン吸収に対する食事の影響は、一般的な薬物のそれと大差ないということです。これでは、空腹時投与を避けるべき理由にはなりませんから、もう少し別の角度から検証したいと思います。
絶食によりアセトアミノフェンの肝毒性が高まる?
そう思って調べてみると、とある症例報告を見つけました。24時間の絶食後に、アセトアミノフェンを6000mg服用した結果、黄疸と肝障害を来したというものです3)。著者らは、絶食によって患者が脆弱な状態にあったために、「subtoxic」な用量でも肝毒性を生じたのではないかと考察しています。6000mgという時点でかなりのover doseでは?と思ったのですが、現地の基準ではアセトアミノフェンの毒性用量は150mg/kgとのことで、このケースではこれをギリギリオーバーしていなかったようです。
まさか肝毒性の観点からアセトアミノフェンと食事の関係が問題になるとは思っていませんでした。さらに調べてみると、健常ボランティアを対象にしたクロスオーバー試験を見つけました4)。これは、以下の3つの食事内容によってアセトアミノフェンのAUCがどう変化するか検証したものです。
- 通常の食事
- 36時間の絶食
- 3日間の高カロリー・高脂肪食
結果として、絶食時は通常食と比較してAUCが20%増大した一方、高カロリー食では特に変わりなかったとのことです。これは、先ほど挙げた症例報告における結果を支持するものです。結論として、ある程度の期間の絶食はアセトアミノフェンのAUCを増大させるので、毒性の発現により注意する必要があるといえます。
日本の添付文書にしたがった投与ではあまり関係ないか?
とはいえ、今回挙げた2つの文献では、いずれも24時間以上の絶食の後にアセトアミノフェンを服用していました。少なくとも、プライマリケア領域でそういうバックグラウンドを持った人に遭遇する可能性はかなり低いと考えられます。アセトアミノフェンの空腹時投与について問題になるとすれば、「12時に昼食をとって、今17時だけど夕食前に飲んでいいか?」といった状況でしょう。この程度のレベルで、添付文書に準じた量を服用する限りにおいては、上記のような肝障害をことさら問題視する必要はないと思います。あくまでも、特殊な状況下においてAUCが増大する可能性を念頭におければ、現状では十分なのかなと考えます。
結論としては、普通に3食を食べているような人が、常識的な量を服用する場合には、アセトアミノフェンを空腹時服用することには特に問題ないといえそうです。
では、また次回に。
Reference
- カロナール錠 添付文書 あゆみ製薬株式会社
- カロナール錠 インタビューフォーム あゆみ製薬株式会社
- Fernando WK, et al. Paracetamol poisoning below toxic level causing liver damage in a fasting adult. Ceylon Med J. 2009 Mar;54(1):16-7. PMID: 19391450
- Achterbergh R, et al. Effects of nutritional status on acetaminophen measurement and exposure. Clin Toxicol (Phila). 2019 Jan;57(1):42-49. PMID: 29974811