こんにちは、黒田です。
抗うつ薬の添付文書には、「眠気を生じるので、服用中は自動車の運転などには従事しないこと」という旨の注意書きがされています。副作用として鎮静等を生じる薬物の一般的な注意事項として記載されているものだと思いますが、例えば第一世代抗ヒスタミン薬ではこうした注意が服薬指導などの際にもよく行われるのに対し、抗うつ薬では「車の運転をしないでくださいね」とうるさく指導されることはまれに感じます。
これは、抗ヒスタミン薬のように症状があるときだけ使用すればよい薬物と、抗うつ薬のように継続使用が必要な薬物での対応の違いと理解することが出来ます。一方で、実際には抗うつ薬を服用していても自動車運転に支障をきたすことはほぼないものの、いわばイクスキューズのために添付文書にはそうした注意書きをしているだけなので、患者向けにあえて注意がなされない、という可能性もあります。本当のところはどうなのでしょうか。
そこで今回は抗うつ薬と自動車運転について調べることにしました。
文献
このテーマについて、よさそうな観察研究があったので、引用します1)。
Summary
- 自動車事故を起こした人とそうでない人で、抗うつ薬・ベンゾジアゼピン・抗精神病薬・Z薬物の使用率が異なるか検証した、症例-対照研究
- 抗うつ薬、ベンゾジアゼピン系薬物では自動車事故オッズは有意に服用者で多かった
- 抗精神病薬を除く薬物では、投与量増大に伴って事故オッズ比も増大する傾向にあった
Study design
- P: 5183 subjects with MVAs and 31 093 matched controls, identified from the claims records of outpatient service visits during the period from 2000 to 2009 (2000年から2009年の間に外来診療を受診した際の記録から同定した、自動車事故当事者5183名とマッチングさせた対照31093名)
- E: 抗うつ薬、ベンゾジアゼピン、抗精神病薬、Z薬物の使用
- C: 対象薬物使用なし
- O: 自動車事故の発生オッズ比
- T: 症例-対照研究
ロジスティック回帰分析を利用することで、都市性 (都会か田舎か)・外来受診状況・Charlson併存疾患スコアなどを補正している
Result
主要な結果はTable 3にまとめられているので、以下に引用。基本的には共変数を補正したAORの方を見ておけばよいと思われる。抗うつ薬に関しては、種類によらず過去1か月以内の使用によって自動車事故オッズを1.7倍程度有意に増大。ベンゾジアゼピン系薬物に関しても、ほぼ同じ作用が見られる。抗精神病薬は事故オッズ比に有意な影響を与えていないが、その効果は定型薬で大きい傾向が見られる。
各薬物の用量依存性を検証する目的で、DDD (Defined Daily Dose) 別に計算されたのが、Table 4。同じく引用。抗精神病薬については直線的な用量依存性は認められないが、ほかの薬物群に関しては一貫してDDDの増大に伴った自動車事故オッズ比増大が見られる。
コメント
大雑把にいえば、抗うつ薬はベンゾジアゼピン系薬物と同じくらい自動車事故を起こしやすくするということです。これは、個人的に予測していたのよりもかなり大きな影響です。
となれば、抗うつ薬は使用中に自動車運転を控えるべき薬物として日ごろから注意を払うべきということになります。しかしながら、抗うつ薬は継続服用することが重要であることから、一律に服用中の運転を禁止しているとかなりの期間にわたって生活に支障が生じると予想されます。特に地方においては、ちょっとした外出にも車が必要になることは多い。こうしたことを考え合わせれば、やはり画一的に運転禁止とするのは非現実的で、投与量や運転の内容に応じた弾力的な対応をしていくほかないと思われます。具体的には、服用量がわずかであればある程度は許容するとか、東京-大阪間の往復みたいな長距離運転はやめようねとか・・・そういうことになるでしょう。
いずれにしても、こうした内容を指導する上では生活に関する情報が必須。個々のケースでうまく対応できるように、日ごろからそうした内容にもアンテナを張っておきたいと思います。
では、また次回に。
Reference
- Chang CM, et al. Psychotropic drugs and risk of motor vehicle accidents: a population-based case-control study. Br J Clin Pharmacol. 2013 Apr;75(4):1125-33. PMID: 22971090