こんにちは、黒田です。
インフルエンザで抗インフルエンザ薬を処方された人の家族から、「この薬を使えば、家族にインフルエンザがうつるのを防げるのか?」という旨の質問を受けました。論理的に考えるなら、ノイラミニダーゼを阻害することで体内のウイルス量はいくぶん減るはずですから、排泄されるウイルス量も減るはずです。しかしながら、ゼロにすることは当然できないので、手洗いなどの標準的な予防法は引き続き行うよう、このケースでは説明しました。
しかし、考えてみれば患者に対する抗インフルエンザ薬投与によって、家庭内感染を本当に減らせるのか、減らすとしたらどのくらいなのか、量的に回答できるほどの知識がありません。そこで、これを今回のテーマとして調べてみることにします。
読んだ文献
抗インフルエンザ薬と家庭内感染について調査した研究が、果たしてあるのか不安でしたが、ありました。文献1です。いつものようにPECOTからまとめていきます1)。なお、今回の文献は権利の関係で抄録しか参照できなかったので、悪しからずご了承ください。
- P: バングラデシュ・ダッカに住んでいる1歳以上のインフルエンザ患者
- E: オセルタミビル
- C: プラセボ
- O: 家庭内二次疾患およびPCRで確認されたインフルエンザ感染
- T: RCT
治療は5日間。被験者 (その家族の人数) は、以下の通り。
- 全体:1190 (4694) 名
- プラセボ群:592 (2292) 名
- オセルタミビル群:598 (2402) 名
主要評価項目である、家庭内二次疾患の件数 (割合) は、それぞれ以下の通り。プラセボ群基準のオッズ比 (95%CI) は、0.77 (0.60 to 0.98) だったとのこと。
- プラセボ群:233 (10%)
- オセルタミビル群: 196 (8%)
PCR分析については、検体の提出率が57%と低かったため、インフルエンザ感染率はよくわからなかったようだ。
上に抜粋した、二次疾患率8および10%という数字を用いて計算すると、RRR、ARR、NNTはそれぞれの以下のようになります。
- RRR=(10-8)/10=20%
- ARR=10-8=2%
- NNT=1/ARR=50
NNT=50と聞くとイマイチに感じるかもしれませんが、これは家族1名が発症するのを減らすために50件の投与が必要という意味なので、世帯の家族人数が多ければその家庭内での発症予防におけるNNTはもっと小さくなります。両親+子供1名という核家族でも25、子供が二人なら17となりますから、そう考えればまあまあインパクトがある数値にも思えます。家庭内にハイリスクの人がいるような状況ならば、抗インフルエンザ薬を投与する方向に判断が傾くでしょうし、NNT=50はもっとも悪い条件下での数字と思ってよいかもしれません。
とはいえ、抗インフルエンザ薬の投与によって劇的に家庭内感染を減らすことができる、というわけではないので、あくまでも「ないよりはマシ」程度のものでしょう。また、言うまでもないことですがワクチンの代わりになるものでもないので、説明の際には誤解を与えないように注意する必要があります。
では、また次回に。
Reference
- Fry AM, et al. Effects of oseltamivir treatment of index patients with influenza on secondary household illness in an urban setting in Bangladesh: secondary analysis of a randomised, placebo-controlled trial. Lancet Infect Dis. 2015 Jun;15(6):654-62.